「ここか・・・」
呟きは、やがて、さえずる鳥の声や、獣の鳴き声の中に消えた。
静まり返っているようで実はそうではない、命の音が満ちる、緑豊かな森の中。
そこにひっそりと佇む小さな遺跡。
その前に、一人の男が立っていた。何故かぼろぼろの格好をしている。
彼は、何かを思いだしたように、げんなりとため息を一つ、こぼす。
「はあ、ようやく着いたぜ・・・全く、何でこの俺があんな目に・・・」
彼は、ひとしきりブツブツとぼやいた後、さてと、と呟き、改めてその遺跡を見渡した。
疑わしそうに、眉をひそめる。
「本当にこんな所に秘宝があるのか・・・?」
―事の起こりは数日前。古い、無人の書庫に彼はいた。
銀の髪、青いバンダナ、黒を基調としたローブとショルダーガード・・・
言わずと知れた、闇の魔導師、シェゾ・ウィグィィである。
「人の心を操る秘宝、か・・・」
今、シェゾの手には、一冊の本が開かれていた。足下には本が散乱している。
読書が趣味で、大量の知識をその頭の中に収めている
――ただし、いまいち、それを生かし切れていない感がなくはないが――
シェゾにとって、あまり真新しい情報はないが、たまに、面白い発見がある。
それを求めてシェゾは読書を繰り返すのだ。
この日は、当たりを引いたようである。
「なるほど、これを手に入れれば・・・」
シェゾは口の端をつり上げた。
「世界を手に入れることもたやすい、かもな」
シェゾが興味を引かれた『人の心を操る秘宝』――それに関しての記述は次の通りである。
*
昔々、あるところに、おじいさんとおばあさん・・・っと、失礼。
人の心を操る秘宝を作り、世界を征服しようとした男がいた。
しか〜し、その力があまりにも大きかったため、その男には制御できず、秘宝の力に飲み込まれた。
その後、それが人々を狂わせ始めたので、見かねた私・・・いやいや、大昔のえら〜い人が、
それを封じ込めたんだよ。はい〜、みんな感謝しようね
*
はっきり言って、滅茶苦茶怪しい、ふざけた記述である。
さらに、これの著者が『謎の男』となってるのも、怪しさを倍増させている。
普通の人なら、とても信じるわけがないのだが・・・
「よし、俺がこの秘宝を手に入れてやる!!」
シェゾはあっさりと信じ込んだ。
むろん、少々の怪しさは、シェゾも感じている。
だが、それ以上にシェゾは・・・ヒマだった
退屈な日々に辟易していて、何か楽しいことがないかな、と思っていた。
要するに、暇つぶしがしたいのである。これは、格好の機会だ。
その上、秘宝を見つけることができれば、一石二鳥である。
まあ、根が単純、ということもあるが。
唯一、気になることといえば、前の持ち主が、それを制御できなかったということぐらいか。
まあ、大丈夫だろう。俺はそんなヘボとは、違う。
俺なら、できる。俺がこの秘宝を手に入れて、世界を支配してやる――
「よし、じゃあ早速行くか!」
やる気満々で立ち上がったシェゾに、最初の不幸が襲いかかった。
―ズリッ―
「うわっ!」
シェゾは、足下に散らばってた本の一冊に、足を滑らせた。
後ろには、大きな本棚がある。
―ゴツン!―
案の定、後頭部をその本棚に打ち付けてしまった。さらに・・・
「いててて・・・」
後頭部を押さえながら、再び立ち上がろうとした時。
―バサバサッ―
「うおぅ!」
上から大量の本が、一斉にシェゾの所に降ってきた。
ここにある本は、ほとんどが装丁本である。それが直撃する痛さは、推して知るべし、である。
「ちくしょう。何なんだ!いった・・い・・・」
悪態をつきながら、本の山からはいずり出てきたシェゾは、今度は何か不吉な音を聞いた気がして、
言葉を途切らせた。頭上を見上げる。
―思考停止―
シェゾの目に映ったのは、バランスを崩した本棚が、シェゾの方に倒れてくる姿だった。
倒れてくる。ゆっくりと、ゆっくりと・・・・
「う・・・」
かろうじて、声を絞り出した、次の瞬間、
「うっぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ〜!」
―プチ―
無情にも、本棚はシェゾを押しつぶしていた。
不幸は連鎖するもの。
前途は、多難のようである・・・
はい、本当にヘボです。ずいぶんと長くなっちゃったし。
まあ、わかりにくいところは勘弁してください。
はあ、それにしても、これがどうなっていくのか、非常に楽しみです。
一体これから、誰が出てくるのか。秘宝は見つけられるのか。シェゾは無事でいられるか・・・
トップって、こういう楽しみがあるんですねぇ。
でも、今度は、誰かの続きも書いてみたいなあ、なんて思ったりして・・・
しかし、本当に長くなってしまったなあ。すいません。
それでは、次のには、がんばってほしいです。
愛知県津島市 聖 十夜 さん